建設業者の皆様、電気通信工事で問題となる、機器売買と工事請負の合算・分離基準を明確にしていますか?

この金額判定は、特定建設業許可(5,000万円)や技術者専任義務(4,500万円)に直結し得るものです。特に、形式的な分離は法律違反リスクがあります。

この記事では、建設業法に基づき、合算・分離の実務戦略と、コンプライアンスを担保する社内ルール整備の具体策を簡潔に解説いたします。

 

1.なぜ「機器売買」と「工事請負」の区分が重要なのか

電気通信工事の実務では、サーバー・ネットワーク機器・防犯カメラなどの「高額な機器代」と、配線・設置・調整などの「工事代」が一体となるケースが頻繁に発生します。

この際、契約形態をどのように設計するか(機器代を工事請負金額に含めるか否か)によって、建設業法上の「請負代金の額」が大きく変動します。この金額の変動は、以下のような法的義務や許可要件に直結するため、非常に重要な論点となります。

  • 1件の請負代金が4,500万円以上(建築一式は9,000万円以上)
    【現場専任義務】 主任技術者や監理技術者を他現場兼務させてはいけない義務が発生
  • 元請として、下請代金の総額が5,000万円以上(建築一式は8,000万円以上)
    【特定建設業許可】 および 【監理技術者の配置】、施工体制台帳の作成義務が発生

実務の現場では、以下の相反するニーズが存在します。

  1. 実績確保のニーズ: 監理技術者の資格要件(実務経験)を満たすため、あえて機器代を含めて請負金額を大きくしたい。
  2. 法令遵守・効率化のニーズ: 不要な特定建設業許可や専任配置義務を削減するため、正当な理由に基づいて機器代を分離したい。

これらを法的リスクなく適切に整理することが、建設業許可業者のコンプライアンス戦略として求められます。
 

2.建設業法上の「請負代金の額」の定義

建設業法において、「建設工事の請負代金の額」には原則として以下の要素が含まれます。

  • 工事に必要な機械・器具・材料の費用
  • 労務費・外注費
  • 設計・調整・試験費 など

したがって、単に「機器代は物品売買契約、工事代は工事請負契約」と契約書を分ければ請負代金が下がる、という単純なものではありません。実態として一体不可分の工事であれば、形式的に契約を分けても「許可逃れのための分割」とみなされるリスクがあります。 請負金額の判断は、請求書の枚数や契約書の名称ではなく、「取引の実態」に基づいて行われる点に注意が必要です。
 

3.機器売買と工事請負を「合体(合算)」して扱うべきケース

(1)合算が原則となる典型例

監督官庁や審査実務において、機器代と工事代を合算した金額が「請負代金の額」と判断されるのは、主に以下の条件を満たす場合です。

  • 同一の注文者・施設・目的の下で行われること
  • 機器納入と設置・試験調整が一体となって機能すること
  • 工事会社が機器の選定・調達を含めて一括責任を負っていること
  • 契約書が形式的に分かれていても、営業提案等が「一式工事」として行われていること

【電気通信工事の具体例】

  • データセンターにおけるネットワーク機器・サーバーおよび配線・設定一式
  • 工場の生産ライン更新に伴う制御盤・センサーおよび電気通信配線一式
  • 大規模倉庫の防犯カメラ・録画装置およびLAN配線・設定一式

これらは通常、機器代込みの一体工事として金額判定を行うべき案件です。

(2)戦略的に「合体」させるメリット:監理技術者の育成

あえて適法に「機器+工事」を合体させて契約することは、人材育成の面で大きなメリットがあります。

  • 自社内で監理技術者を計画的に育成したい
  • 将来の大規模案件に備え、監理技術者資格者証の保有者を増やしたい

本来は一体の工事であるにもかかわらず、機器代を別会社の売買契約として切り離してしまうと、建設業法上の実績額が減少し、「監理技術者配置対象工事の元請実績(指導監督的実務経験)」としてカウントできなくなる機会損失が生じます。

谷島行政書士法人グループでは、実態として一体のプロジェクトについて、適法かつ合理的に「機器+工事一式」として契約を設計し、4,500万円や5,000万円の基準ラインを意識した案件組成をご提案しています。 また、将来の資格申請を見据え、契約書・内部決裁書類・工事内訳書の残し方を含めたアドバイスを行い、グループの人材戦略を支援します。

なお、当然ですが、谷島行政書士法人は倫理に基づき、適法に業務遂行いたします。したがって、監理技術者証などの申請直前に分離可否などを相談されてもできないことが通常です。実態から運営を変更していくことが必要です。
 

4.機器売買と工事請負を「分離」できるケースとNGライン

(1)正当に「分離」できる要件

一方で、以下の条件を満たす場合は、機器売買と工事請負を別取引として扱い、請負代金から機器代を除外できる余地があります。

  • 経済的な独立性: 機器の売買だけで取引が完結し得る(ユーザーが自ら別の工事会社に設置を依頼することが可能な状態)。
  • 契約当事者の分離: 売買契約の相手方と、工事請負契約の相手方が異なる(グループ会社間であっても役割分担が明確である)。
  • 区分管理の徹底: 公募仕様書や社内決裁において、「機器調達プロジェクト」と「工事プロジェクト」が別案件として明確に管理されている。

このような実態がある場合に限り、機器側は「物品売買取引」、工事側は「建設工事」として個別に金額判定を行うことが認められます。

(2)「分離」によるメリット:許可・配置義務の適正化

正当な分離を行うことで、建設業法上の請負金額を抑えることができれば、以下のようなメリットがあります。

  • 特定建設業許可の不要化: 下請総額を5,000万円未満に抑え、一般建設業許可での施工を可能にする。
  • 技術者の効率配置: 4,500万円未満とすることで現場専任義務を回避し、限られた技術者を効率的に配置する。

これにより、コンプライアンスを守りつつ、技術者リソースのポートフォリオ管理が可能になります。

(3)違法ライン:形式的な「金額操作」とみなされるケース

ただし、実態は一体の工事であるにもかかわらず、以下のような処理を行うことは「許可逃れ・義務逃れ」と判断されるリスクが高く、絶対に行うべきではありません。

  • 契約書だけを二つに分けて金額を調整している
  • 請求書を複数枚に分けて、意図的に500万円未満や5,000万円未満に抑えている
  • 機器売買側の契約に、事実上の施工責任や保証が含まれている(そもそも工事請負契約の性質があり、建設業法で請負契約とみなされうるもの)
  • 社内稟議や顧客説明では「一式工事」としているのに、対外的な説明だけ金額を分けている

このような形式的な分割は、無許可請負や虚偽申請、監理技術者制度の形骸化として、行政処分や刑事罰の対象となる重大なリスク要因です。
 

5.谷島行政書士法人グループがご提供できる支援

当法人グループでは、建設業許可・監理技術者制度に精通した専門家として、以下のご支援が可能です。

  • 「合算(実績作り)」ケースの戦略的設計 監理技術者資格者証の取得を見据え、基準工事の実績として認められるための契約スキームや証憑書類(決裁書、内訳書等)の整備支援。
  • 「分離(適正化)」ケースの適法性レビュー 実態として分離が妥当かどうかのリーガルチェック、および特定建設業・監理技術者配置義務との関係整理。
  • グループ向けガイドライン策定・社内研修 売上規模の大きい企業グループを対象とした社内判断フローの構築、契約雛形の作成、および技術者育成に関する社内研修の実施。

建設業法の解釈と実務運用についてお悩みの際は、ぜひ一度ご相談ください。

この記事の監修者

谷島 亮士
谷島 亮士
谷島行政書士法人グループCEO・特定行政書士外国人雇用・ビザの専門家として手続代理と顧問アドバイザリーを提供。ビザ・許認可など法規制クリアの実績は延1万件以上。
- 講師実績行政書士会、建設やホテル人材等の企業、在留資格研究会等の団体、大手士業事務所、その他外国人の講義なら幅広く依頼を受ける。▶ ご依頼、セミナー、取材等のお問合せはこちら

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- 資格等特定行政書士、宅建士、アメリカMBA・TOEIC、中国語(HSK2級)他
- 略歴等・札幌生まれ、仙台育ち、18歳から東京の大学へ進学。・自身が10代から15種ほどの職種を経験したことから、事業のコンサルと経営に興味を持ち、その近道と考え行政書士受験、独学合格(合格率2.6%)。・行政書士・司法書士合同事務所を経験後、大和ハウス工業㈱に入社。「泥くさい地域密着営業」を経験。・独立し業務歴15年以上、マサチューセッツ州立大学MBA課程修了、現在に至る。
- 取引先、業務対応実績一部・企業:外国上場企業などグローバル企業、建設など現場系の外国人雇用企業・外国人個人:漫画家、芸能人(アイドルグループ、ハリウッドセレブ)、一般企業勤務者他