建設業者の皆様、特定建設業許可の5,000万円判定における材料費の扱いを巡り、貴社の判断は適切か疑問に感じたことはないでしょうか?
500万円(軽微な工事)と5,000万円(特定建設業)では、材料費の扱いが真逆になるため、誤った判断は建設業法違反や不必要な義務に直結し得る可能性があります。
この記事では、法令に基づき材料費のルールを解説するとともに、「基準工事のための合体」や「義務回避のための分離」といった実務戦略と、コンプライアンスを担保する社内ルール整備の具体策をご紹介いたします。
1.なぜ「5,000万円」と「材料費の扱い」が問題になるのか
令和7年2月1日施行の改正で、特定建設業許可が必要となる下請代金額の下限は、以下に引き上げられました。
- 建築一式工事以外:5,000万円(税込)
- 建築一式工事:8,000万円(税込)
建設業法上は、発注者から直接請け負う一件の工事について、元請負人が
一次下請に出す金額(複数社なら合計)が5,000万円以上となる場合、
その工種について特定建設業許可が必要とされています(建設業法3条1項、建設業法施行令2条)。
それとは別に、監理技術者の配置
ここで経営層・管理部門が必ず直面するのが、次の二つです。
- 合体させて5,000万円以上 … 監理技術者資格者証を取るための「基準工事」を意識したい
- 分離して5,000万円未満に抑える … 不要な特定建設業許可や監理技術者義務を増やしたくない
この時、「下請代金に材料費をどこまで含めるのか」が、極めて重要な論点になります。
なお、監理技術者配置でなく「監理技術者証」のための要件や工事基準額は厳密には異なることに注意が必要です。
2.法令上の整理:「下請代金の額」と材料費
2-1 特定建設業許可の要件と「5000万円」
国交省の「建設業の許可の概要」(地方整備局資料)では、特定建設業について次のように説明されています。
- 発注者から直接請け負う1件の建設工事につき
- その工事の全部又は一部を、
- 下請代金の額(複数ある場合は合計)が5000万円以上(建築一式は8000万円以上)
となる下請契約を締結して施工しようとする場合に必要な許可
ここでポイントとなるのが「消費税及び地方消費税相当額を含み、元請負人が提供する材料等の価格は含まない。」という解釈です。
さらに、国交省「建設業許可事務ガイドライン」でも、建設業法施行令2条(下請代金の額)に関する解説として、
元請負人が5,000万円(建築一式工事は8,000万円)以上の工事を下請施工させようとする時の5,000万円には、元請負人が提供する材料等の価格は含まない
と明確に書かれています。
つまり、特定建設業許可が必要かどうかを判断する「5,000万円」には、
元請が自前で購入して下請に支給する材料費は含めないということが基本的な行政見解です。
2-2 500万円の「軽微な建設工事」との違い(材料費の扱い)
一方で、建設業許可がそもそも必要かどうかを判断する「軽微な建設工事(500万円未満)」では、材料費の扱いが逆になります。
- 建設業法施行令1条の2(軽微な建設工事)
- 同条3項
→ 注文者が材料を提供する場合は、その市場価格および運送費を請負代金に加えて基準額を判断する、と規定。
国交省地方整備局のQ&Aでも、
軽微な建設工事に該当するかの判断では、
注文者が材料を提供する場合、その市場価格及び運搬費を加えた額で判断する
とされており、材料費を含めた金額で「500万円」を見ることが明示されています。
2-3 まとめ:500万円と5,000万円で「材料費の扱い」が逆
整理すると、材料費の取り扱いはこうなります。
- 500万円(軽微な建設工事・許可要否)
- 注文者提供の材料費・運送費も 含めて 判定
- 5,000万円(特定建設業許可・監理技術者配置)
- 元請が提供する材料費は 含めない で判定
したがって、同じ材料費でも、どの「金額要件」を判断しているのかで扱いが異なる点を押さえる必要があります。
3.「材料費を合体」させる発想:監理技術者の基準工事づくり
3-1 どんなときに「合体」が問題になるか
特定建設業許可を有する又は取得したい企業では中長期的に以下のニーズが多くあります。
- 社内の技術者を監理技術者にステップアップさせたい
- 将来の大型案件を前提に「基準工事」の実績を計画的に積みたい
監理技術者資格者証の取得には、原則として
- 特定建設業の元請として、一定規模以上の下請出し工事の実務経験
が要求されます(詳細は各資格要件に依存)。そのため、
「どうせ工事一式を下請に任せるのであれば、
材料の購入から施工までを下請工事にまとめて、
5,000万円以上の“基準工事”としてカウントしたい」
という相談が現場から上がってきます。
3-2 適法な「合体」の方向性
ここで重要なのは、以下のような「実態」です。
誰が材料を購入し、その対価を誰から受け取るのか
誰がその材料の品質・数量・損傷リスクを負っているのか
- 下請業者が自ら材料を購入し、
- 材料費+施工費をまとめて元請に請求する
- 材料リスクも下請が負う
→ この場合、材料費も下請代金の一部と見るのが自然
- 逆に、元請が材料を一括購入し、
- 下請には施工のみを発注
- 材料の所有権・リスクは元請側
→ この場合、元請提供材料の価格は、前述のとおり
「5,000万円の下請代金」には含めないとされています。
したがって、谷島行政書士法人グループとしてご提案できる「合体メリット」は、
- 本来、下請側が材料調達から一体で担う方が合理的な工事について
- 契約・品質責任・内部統制まで含めて、
材料調達+施工を下請工事として一括発注するスキームを整える - その結果として、下請代金が5,000万円以上の工事を
計画的に監理技術者の「基準工事」として積み重ねていく
という「実態に即した合体」になります。
※形式だけ材料費を「下請側に付け替える」ような操作は、
会計・内部統制・税務上のリスクもあり、推奨できません。
4.「材料費を分離」して5,000万円未満に抑える発想
4-1 特定建設業許可・監理技術者を増やしたくない場面
一方で以下の懸念や要望もあります。
- あえて特定建設業許可の範囲を広げたくない
- 限られた監理技術者を本当に必要な工事に集中投入したい
特定建設業許可・監理技術者配置義務が生じるのは、
- 発注者から元請として直接請け負った工事で
- 一次下請への発注合計が5,000万円以上となる場合です。
4-2 ガイドラインが明示する「材料費を含めない」ルール
ここで、前述の建設業許可事務ガイドラインが重要となります。
- 発注者から直接請け負う一件の建設工事について
- 元請が5,000万円以上の工事を下請施工させようとする時の
- 5,000万円には、元請が提供する材料等の価格は含まない
と読むことができます。したがって、実態として、
- 元請側で材料を購入し
- 下請には施工のみを発注し
- 材料リスクも元請が負っている
のであれば、その施工部分だけの金額で「5,000万円」を判定するのが、建設業法上の基本スタンスといえます。
その結果として、下請代金を5,000万円未満に抑えられる工事が増えれば、以下のメリットがあります。
・ 特定建設業許可+監理技術者が不要
・一般建設業許可+主任技術者で足りる工事のポートフォリオを増やせる
5.「形式的な分離のみ」は不可:契約書ではなく実態で判断
ここが一番重要なコンプライアンスポイントです。
建設業法施行令1条の2第2項および建設業許可事務ガイドラインでは、
同一の業者が行う一つの工事を、二以上の契約に分割して請け負う場合、
原則として各契約の請負代金の合計額で判断する
(ただし、正当な理由に基づく分割は除く)
とされています。
また、国交省地方整備局のQ&Aや解説でも、
- 許可逃れのための安易な分割請負
- 実態が一体の工事であるにもかかわらず、契約書・注文書だけを分ける行為
は、建設業法違反(無許可請負)となる可能性が高いことが繰り返し警告されています。
したがって、
- 形式上は「材料費は元請持ち」「施工だけ下請」としていても、
- 実態として下請が材料調達をしている
- 契約書の書き方だけで金額を調整している
ようなケースは、「分離しているように見えて、実質は合体」と評価されるリスクがあります。
6.特定建設業者なら整備したい社内ルール
6-1 契約設計・稟議段階での「金額判定フロー」
- 契約前に、
- 工事の範囲
- 材料調達の責任分担
- 下請構成(一次・二次)
を整理したうえで、
- 「この工事は特定建設業許可の業種や監理技術者が必要か」を
法務・総務・建設部門が共同でチェックするフローを整備
6-2 材料調達の役割分担ガイドライン
- 「元請が調達すべき材料」と「下請に調達させる材料」を
- 安全・品質・内部統制の観点
- 特定建設業許可・監理技術者の観点
の両方から整理し、企業方針として文書化
6-3 監理技術者育成のための「合体すべき案件」の見える化
- 将来の監理技術者候補者ごとに、
- どの案件を「5,000万円以上の基準工事」として積ませるか
- 材料調達をどこまで下請範囲に含めるか
を、中期的な人材ポートフォリオとして管理
7.谷島行政書士法人グループにお任せいただけること
谷島行政書士法人グループでは、建設業法・建設業許可事務ガイドライン・各地方整備局Q&Aといった一次情報のほか、法令はもちろん、行政規則や運用を確認し、それら根拠をもとに、次のような顧問対応が可能です。
1 「合体で5,000万円以上」を狙う案件設計支援
(1) 監理技術者資格者証取得を見据えた「基準工事」の設計
(2)材料調達を含めた下請スキームの妥当性チェック
(3)将来の審査に耐えうる契約書・内訳書・工事関係書類の整備
2 「分離で5,000万円未満」を適法に維持するためのレビュー
(1)実態に即した材料費の切り分けができているか
(2)特定建設業許可・監理技術者配置が本当に不要といえるか
(3)グループ内各社で判断がバラつかないようにするための雛形・社内マニュアル作成
役員・管理職向けのコンプライアンス研修
- 「500万円」「4,500万円」「5,000万円」など、金額要件の整理
- ケース別に、材料費の含め方・分け方をわかりやすく解説
- 実際の行政処分事例やリスクを踏まえたガバナンス強化
8.材料費と特定建設業許可下請額のまとめ
貴社の「5,000万円判定」と材料費の扱いは、現場任せになっていませんか?
・材料費を元請・下請のどちらに持たせるかが、部門ごとにバラバラ
・監理技術者候補はいるものの、「基準工事」の積み方が分からない
・特定建設業許可が本当に必要な工事と、一般許可で足りる工事の線引きがあいまい
といった課題があれば、まずはご連絡ください。
この記事の監修者

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