なぜ契約方法が厳しく定められているのか?

ガイドラインが示す「建設業法違反となる4つの契約事例」

事例①:書面による契約を行わなかった

事例②:契約書の記載事項が不足している

事例③:契約前に工事に着手させた

事例④:注文書・請書のみで、契約約款がない

【最重要ポイント】注文書・請書だけで契約する場合の絶対条件

法令遵守でリスクを回避し、健全な経営を

 

 

「基本契約書がないまま、注文書と請書だけで取引している」

「元請の指示で、契約書を交わす前に工事を始めてしまった」

もし、このような慣行に心当たりがあれば、貴社は建設業法違反のリスクを抱えているかもしれません。

国土交通省が公表している「建設業法令遵守ガイドライン」では、建設工事の契約に関して、数多くの違反事例が指摘されています。知らなかったでは済まされないこれらのルールは、建設業者を不当な契約から守ると同時に、遵守すべき義務を課すものです。

本ページでは、建設業法務を専門とする行政書士が、ガイドラインを基に、特に問題となりやすい下請契約や注文書・請書の取り扱いに焦点を当て、処分リスクを回避するための具体的なポイントを解説します。

なぜ契約方法が厳しく定められているのか?

建設工事は、その性質上、追加工事や仕様変更が発生しやすく、代金の支払いをめぐるトラブルも少なくありません。特に元請負人と下請負人の間では、立場の違いから下請負人が不利な状況に置かれがちです。

そのため建設業法では、契約内容を事前に書面で明確化することを徹底させ、当事者間のトラブルを未然に防ぎ、公正な取引関係を確保することを目的としています。口約束や曖昧な書面での契約は、この目的に反するため、厳しく規制されています。

適法な契約締結方法は、主に以下の三類型が想定されております。

①個別契約書

②基本契約書+注文書・請書の交換

③注文書・請書の交換のみ+約款

建設業法令遵守ガイドライン(第11版)

①工事毎の個別契約による場合個別契約書には、法第19条第1項各号(前頁の14項目)に掲げる事項を記載し、当事者の署名又は記名押印をして相互に交付して下さい。

②当事者間で基本契約書を取り交わした上で、具体の取引については注文書及び請書の交換による場合
1. 基本契約書には、個別の注文書及び請書に記載される事項を除き、法第19条第1項各号(前頁の14項目)に掲げる事項を記載し、当事者の署名又は記名押印をして相互に交付して下さい。
2. 注文書及び請書には、法第19条第1項第1号から第3号(前頁の1~3)までに掲げる事項その他必要な事項を記載して下さい。
3. 注文書及び請書には、それぞれ注文書及び請書に記載されている事項以外の事項については基本契約書の定めによるべきことを明記して下さい。
4. 注文書には注文者が、請書には請負者がそれぞれ署名又は記名押印をして下さい。

③注文書及び請書のそれぞれに、あらかじめ同意した内容の基本契約約款を添付又は印刷する場合

 

 

ガイドラインが示す「建設業法違反となる4つの契約事例」

「建設業法令遵守ガイドライン(第11版)」では、以下のような行為が建設業法第19条(建設工事の請負契約の内容)に違反する可能性があると明示されています。

事例①:書面による契約を行わなかった

最も基本的な違反です。請負金額の大小や工事期間の長短にかかわらず、すべての建設工事で書面による契約が義務付けられています。 口約束のみで工事を受発注することは法律違反です。

事例②:契約書の記載事項が不足している

契約書を交わしていても、建設業法第19条が定める15の必須記載事項が漏れていれば違反となります。

この点、下請から通報され、行政指導や行政処分を受けることがあります。下請とのトラブルが発端ですが、主に次のような契約上の問題が原因となっております。

1. 支払い条件の食い違い

2. 施工のやり直しをさせられる

3. 工期など条件の一方的な変更

4. 不可抗力による損害負担など

 

請負契約書の法定記載事項は次の解説ページをご覧ください。

関連解説ページ:【行政書士顧問事例】建設業法に基づく注文書・請書と15の必須記載事項

事例③:契約前に工事に着手させた

「とりあえず着工して、書類は後で」という慣行は、典型的な違反事例です。契約は工事に着手する前に、当事者双方が署名または記名押印した書面を相互に交付し、完了させなければなりません。工事の途中や完了後に契約書を作成・交付しても、法律の要件を満たしたことにはなりません。

事例④:注文書・請書のみで、契約約款がない

継続的な取引がある場合、「基本契約書」を締結し、個別の工事は「注文書」「請書」で行うことが一般的です。しかし、この基本契約書を締結していなかったり、注文書・請書に契約約款を添付・印刷していなかったりする場合は、記載事項を満たさない不完全な契約とみなされ、違反となる可能性があります。

【最重要ポイント】注文書・請書だけで契約する場合の絶対条件

ガイドラインでは、注文書と請書の交換のみで契約を締結する場合のルールを明確に定めています。

【ガイドラインからの要点】

注文書及び請書のそれぞれに、同一の内容の契約約款を添付又は印刷すること。

これは、注文書と請書だけでは、建設業法が求める15の必須記載事項をすべて網羅することが難しいためです。

注文者(元請)が渡す注文書と、請負人(下請)が返す請書の両方に、全く同じ契約約款(15項目を満たす詳細な条件が書かれたもの)が添付または裏面に印刷されている必要があります。これにより、双方が同一の契約条件に合意したことが明確になります。

注文書にしか約款が添付されていない、あるいは約款の内容が双方で異なるといったケースは、適法な契約とは認められません。

法令遵守でリスクを回避し、健全な経営を

建設業法における契約ルールは、手続きが煩雑に感じられるかもしれません。しかし、これらはすべて、事業者自身を不測のトラブルから守るための重要なセーフティネットです。

「うちは大丈夫」と思っていても、法令の解釈は年々厳格化しています。一度監督処分を受ければ、企業の信用失墜は避けられません。

谷島行政書士法人グループでは、最新の「建設業法令遵守ガイドライン」に基づき、貴社の契約実務が法的に問題ないか診断するリーガルチェックや、実態に即した各種契約書(基本契約書、注文書・請書)の作成をサポートしています。

法令遵守体制を強化し、安心して事業に専念するために、ぜひ一度、当事務所の専門家にご相談ください。

この記事の監修者

谷島 亮士
谷島 亮士