— 見積・価格交渉・下請契約で“やってはいけないこと”が改正法で明確化 —

建設業の人手不足が深刻化する中、賃金(技能者の処遇)が上がらない原因の一つとして、サプライチェーンの各段階で労務費(賃金の原資)が削られる取引が起きやすい構造が指摘されてきました。
そこで、改正建設業法(令和6年法律第49号)により、中央建設業審議会が「労務費に関する基準」を作成し、その実施を勧告できる仕組みが整備され、2025年12月2日に基準が作成・勧告されています。

本ページでは、基準の意味、対象範囲、そして実務で重要な「禁止される行為(見積・変更依頼のNG)」や、社内で最低限整えるべき運用を整理します。

内容

【建設業法2025年改正】「労務費に関する基準(標準労務費)」を徹底解説

1.「労務費に関する基準」とは?

2.いつから影響が出る?(スケジュール)

3.何が変わった?改正の要点3つ

 ① 労務費の「基準(標準労務費)」ができた

 ② 「著しく低い労務費等」の見積・変更依頼が禁止に

 ③ 総価での原価割れ・短工期も抑止(“労務費だけ守ればOK”ではない)

4.「労務費」の範囲はどこまで?

5.具体的に「何を守らないといけない」のか

 A.受注者(建設業者)が注意すべきこと:安値受注のための“労務費削り”は危険

 B.注文者(発注者・元請)が注意すべきこと:見積の“下げさせ方”がNGになる

6.実務対応:まず整えるべき「3点セット」(社内運用の最低ライン)

 ① 内訳(材料費・労務費・経費)を“説明できる形”にする

 ② 価格交渉の記録を残す

 ③ 変更時は“金額だけでなく工期・条件もセット協議”

7.よくある質問(Q&A)

8.労務費の見積書内訳等に係る法令根拠

9. 谷島行政書士法人グループにご相談ください

 

    「労務費に関する基準」とは?

技能者の賃金の原資となる“適正な労務費”を、契約の全段階で確保するための“ものさし”です。
公共・民間を問わず、発注者→元請→下請…の取引全体で、適正な労務費が行き渡ることを狙っています。

実務上は「標準労務費」という呼び方で説明されることが多いです(国交省が運用方針や周知資料を整備)。
 

    2025年12月から改正建設業法施行

  • 中央建設業審議会で「労務費に関する基準」を作成・実施勧告
  • (改正法の施行分):基準を踏まえた新ルール(見積・変更依頼の禁止等)の実務運用が本格化

 

    何が変わった?改正の要点3つ

国交省の周知資料では、労務費・工期・原価割れを“セット”で是正する全体像が示されています。

①労務費の「基準(標準労務費)」ができた

中央建設業審議会が「工期に関する基準」に加えて、「労務費に関する基準」を作成・勧告できるようになりました。

②「著しく低い労務費等」の見積・変更依頼が禁止に

適正な労務費等に比べて著しく低い労務費等での見積提出(受注者側)や、そうなるような見積変更依頼(注文者側)が禁止される方向が明確化されています。

③総価での原価割れ・短工期も抑止(“労務費だけ守ればOK”ではない)

労務費だけ適正でも、総価として原価割れなら結局しわ寄せが起きます。そのため、周知資料では総価の原価割れ短工期も併せて是正する方針が示されています。
 

    「労務費」の範囲はどこまで?

運用方針では、技能者の賃金水準について、まずは公共工事設計労務単価水準並を早急に目指す、といった考え方が示されています。

一方で実務上は、労務費(賃金相当)とは別に、

  • 法定福利費(事業主負担)
  • 安全衛生経費
  • 建退共掛金
    など“不可欠な経費”の計上も必要です。これらは「労務費」と混同しやすいので、内訳を分けて根拠を示すことが重要になります。

 

    具体的に「何を守らないといけない」のか

    A. 受注者(建設業者)が注意すべきこと:安値受注のための“労務費削り”は違反となる

  • 公共工事設計労務単価を下回る水準になるような労務単価設定
  • 不当に効率の良い歩掛を前提にして労務費を圧縮
    こうした見積は、「著しく低い労務費等」として違反となり得る旨が示されています。

    B. 注文者(発注者・元請)が注意すべきこと:見積の“下げさせ方”がNGになる

注文者が、

  • 労務単価を公共工事設計労務単価より下回る水準にさせる
  • 歩掛を不当に効率化させる(=実態に合わない生産性前提)
    などの見積変更依頼をすると、違反となり得ることが明記されています。

ここがポイントです:
「値下げ交渉=全部違反」ではありません。
ただし、労務費(賃金原資)や不可欠な経費を欠落させるような下げ方は、建設業法上リスクが高い、という線引きが明確になりました。
 

    実務対応:まず整えるべき「3点セット」(社内運用の最低ライン)

労務費基準への対応は、現場の努力論よりも見積・契約・変更協議の型を揃えることが近道です。

①内訳(材料費・労務費・経費)を“説明できる形”にする

見積書は「総額」よりも、内訳と根拠が重要になります(労務単価・歩掛・数量・条件補正)。

②価格交渉の記録を残す

「誰が・いつ・何を根拠に・どこを調整したか」。後で紛争になったときの防波堤になります。

③変更時は“金額だけでなく工期・条件もセット協議”

労務費の確保は、追加変更で崩れやすいです。変更契約では「金額+工期+条件」を同時に協議できる条項・運用が有効です。
 

    よくある質問(Q&A)

Q1.民間工事でも対象ですか?
A. はい。国交省の説明では公共・民間を問わず、取引段階全体で適正な労務費を確保する趣旨です。

Q2.「公共工事設計労務単価=必ずそれで積算しろ」なのですか?
A. 一律強制というより、運用方針では賃金水準の目安として公共工事設計労務単価水準並を早期に目指す考え方が示されています。案件の条件や技能者確保コスト次第では、誠実な価格交渉が必要になります。

Q3.歩掛を良く(小さく)見せる提案はダメ?
A. 現実の施工条件・品質・安全を踏まえた合理的な改善なら問題になりにくい一方、不当に効率の良い歩掛になるよう求めることやそれを前提にする行為は違反となり得ると整理されています。
 

    労務費の見積書内訳等に係る法令根拠

以下が令和7年12月12日施行の建設業法改正法です。

(建設工事の見積り等)

第二十条 建設業者は、建設工事の請負契約を締結するに際しては、工事内容に応じ、工事の種別ごとの材料費、労務費及び当該建設工事に従事する労働者による適正な施工を確保するために不可欠な経費として国土交通省令で定めるもの(以下この条において「材料費等」という。)その他当該建設工事の施工のために必要な経費の内訳並びに工事の工程ごとの作業及びその準備に必要な日数を記載した建設工事の見積書(以下この条において「材料費等記載見積書」という。)を作成するよう努めなければならない。

 

谷島行政書士法人グループにご相談ください

労務費基準対応は、「現場に頑張れ」では回りません。見積・契約・変更協議の仕組みを整えることで、価格交渉の説明力が上がります。

短期的にもトラブルが減り、長期的にも建設業法違反をずっと抱えるリスクが減ります。

  • 見積書(内訳・根拠)の整備/社内テンプレ作成
  • 注文書・下請契約の条項整備(変更協議、不可欠費用の扱い 等)
  • 価格交渉の記録化ルール(監査、立入検査、元請、下請トラブル予防)

「見積・契約の運用でどこが危ないか」を棚卸しできます。まずはお気軽にご相談ください。

 

この記事の監修者

谷島 亮士
谷島 亮士
谷島行政書士法人グループCEO・特定行政書士外国人雇用・ビザの専門家として手続代理と顧問アドバイザリーを提供。ビザ・許認可など法規制クリアの実績は延1万件以上。
 
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行政書士会、建設やホテル人材等の企業、在留資格研究会等の団体、大手士業事務所、その他外国人の講義なら幅広く依頼を受ける。▶ ご依頼、セミナー、取材等のお問合せはこちら

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特定行政書士、宅建士、アメリカMBA・TOEIC、中国語(HSK2級)他
 
- 略歴等
・札幌生まれ、仙台育ち、18歳から東京の大学へ進学。
・自身が10代から15種ほどの職種を経験したことから、事業のコンサルと経営に興味を持ち、その近道と考え行政書士受験、独学合格(合格率2.6%)。
・行政書士・司法書士合同事務所を経験後、大和ハウス工業㈱に入社。「泥くさい地域密着営業」を経験。
・独立し業務歴15年以上、マサチューセッツ州立大学MBA課程修了、現在に至る。
 
- 取引先、業務対応実績一部
・企業:外国上場企業などグローバル企業、建設など現場系の外国人雇用企業
・外国人個人:漫画家、芸能人(アイドルグループ、ハリウッドセレブ)、一般企業勤務者他