この記事でわかること

・株式譲渡と合併・会社分割・事業譲渡で、経審の扱いが異なる理由

・X1・X2・Y・Z・Wの評価項目のうち、引き継げるものと再確認が必要なもの

・許可承継の事前認可と、組織再編後の特殊な経審申請の進め方

・入札参加資格への影響と、契約実行前に確認すべき事項

 

結論からいうと、建設業のM&Aでは、従前の経審結果(P点)そのものが全て承継されるわけではありません。ただし、合併・分割・事業譲渡の実態に応じて、完成工事高や財務実績などを引き継ぐ「合併時経審」「分割時経審」「譲渡時経審」の特例が設けられています。

内容

1.「建設業許可の承継」と「経審評価の承継」は別制度…. 1

2.承継できるのは「P点」ではなく、点数の基礎となる評価情報…. 2

3.吸収合併・新設合併:完成工事高などの合算が中心…. 3

4.会社分割・事業譲渡:承継範囲の立証が成否を左右する…. 3

5.実務で問題になる3つの注意点…. 4

① 特殊経審には、当事会社双方の手続が必要になることがある…. 4

② 合併・分割時点の評価と、次回決算後の評価は異なる…. 4

③ 事業区域・許可業種・入札参加資格はそれぞれ別論点…. 4

6.組織再編前に進める実務フロー…. 4

7.よくある質問…. 5

Q.合併によって2社のP点を足せますか?…. 5

Q.会社分割で、利益の出ている建設部門だけの経審を引き継げますか?…. 5

Q.合併して許可を承継すれば、公共工事の入札資格も自動で承継できますか?…. 5

谷島行政書士法人グループのM&A・経審実務支援…. 6

ご相談用:M&A前の確認チェックリスト…. 6

根拠資料・公式案内…. 6

 

 

 

1.「建設業許可の承継」と「経審評価の承継」は別制度

建設業法第17条の2により、事業譲渡・合併・会社分割については、所定の事前認可を得ることで、建設業者としての地位を承継できる制度があります(2020年10月施行)。ただし、許可要件を満たす必要があり、建設業許可の一部の業種だけを選んで承継することは原則として認められません。

一方、経審は建設業法第27条の23以下に制度規定があります。許可を承継しただけで、被承継会社のP点が譲受会社のP点に加算されるわけではありません。組織再編後の経営実態に即した評価を得るため、通常の決算日を待たずに「特殊な経営事項審査」を申請することができます。

取引の方法 法人・事業の変化 経審の基本的な扱い
株式譲渡 対象会社自体は存続 原則としてその法人の既存経審を継続。親会社のP点と自動合算されない。
吸収合併・新設合併 事業と法人の統合 合併時経審により一定の過去実績を合算評価できる。
吸収分割・新設分割 事業の一部又は全部を移転 分割事業に対応する実績を区分し、特例の適用を検討。
事業譲渡 契約で対象事業を移転 営業所・人員・資産・契約等の移転実態により特例適用を判断。

 

2.承継できるのは「P点」ではなく、点数の基礎となる評価情報

P点は、経営規模(X1・X2)、経営状況(Y)、技術力(Z)、その他の審査項目(W)を評価した結果です。組織再編により、すべてを単純に足し合わせるわけではありません。なお、取り扱いは断定できるものではないので、各行政庁に確認が必要です。

審査項目 合併における考え方 分割・譲渡における着眼点
X1:完成工事高 存続会社と消滅会社の所定期間の実績を合算 移転した建設事業に対応する工事高を分ける。
X2・Y:財務・経営状況 修正財務諸表等を作成し、必要な調整・相殺 承継対象事業の財務実態を区分
Z:技術力 基準日時点の所属・資格等を確認。元請完工高は所定のルールで算定。 実際に移った技術職員と対象事業の実績を確認。
W:社会性等 営業年数や法令遵守等は、合併類型ごとに異なる評価方法。 認証、保険、CPD・CCUS等は項目ごとに要件・名義・基準日を確認。

 

重要なのは、完成工事高の「合算可」と、P点の「足し算」は異なることです。財務比率等を含むY点は、統合後の財務数値によって再計算され、技術職員数やW点の全項目も機械的に移転されるわけではありません。

3.吸収合併・新設合併:完成工事高などの合算が中心

吸収合併では、原則として合併期日を特例的な審査基準日とし、合併後の最初の事業年度終了前に合併時経審を受けられます。国土交通省の通達では、存続会社と消滅会社の直前2年又は3年の完成工事高を合算する取扱いが示されています。

合併時経審では、技術職員については基準日時点の資格・雇用関係を確認し、財務項目は修正財務諸表等により計算します。営業年数は吸収合併なら存続会社、新設合併なら消滅会社の年数の算術平均など、評価項目と合併類型によって異なります。

したがって、施工実績が豊富な会社を吸収合併しても、当該会社の技術者が退職していれば、その人数を当然に技術力点へ加算できるわけではありません。法令遵守や監査関係も「良い数字だけを選択して合算する」制度ではありません。

4.会社分割・事業譲渡:承継範囲の立証が成否を左右する

会社分割は、建設事業とその他の事業を分ける場合、あるいは建設業の特定部門を別会社へ移す場合に活用されます。新設分割では、分割前の完成工事高のうち、分割会社と新設会社のそれぞれの分割後の事業に対応する部分を算定する取扱いが定められています。

(2) 新設分割の場合における分割時経審の各審査項目の審査方法の取扱いは、次に 定めるところによるものとする。

① 年間平均完成工事高及び年間平均元請完成工事高 分割会社及び新設会社のそれぞれの年間平均完成工事高及び年間平均元請完成工事高については、一(2)による審 査基準日の翌日の直前2年又は直前3年での分割会社の分割前の完成工事高のうち、分割会社及び新設会社のそれぞれの分割後の営業に相当するものに係るそれぞれの完成工事高をもって審査するものとする。ただし、額の確定までに相当の時間を要する場合において、やむを得ないと認められるときは、次のいずれかの額をもって申請させ、これを審査して差し支えないものとし、この場合に、改めて分割時経審を申請することはできないものとする。

イ 分割会社及び新設会社が経営事項審査を申請しようとする日の属する事業年度の開始の日の直前2年又は直前3年の各事業年度における分割会社の分割前の完成工事高のうち、分割会社及び新設会社のそれぞれの分割後の営業に相当するものに係るそれぞれの完成工事高

ロ 分割会社及び新設会社が経営事項審査を申請しようとする日の属する事業年度の直前の事業年度の開始の日の直前2年又は直前3年の各事業年度における分割会社の分割前の完成工事高のうち、分割会社及び新設会社のそれぞれの分割後の営業に相当するものに係るそれぞれの完成工事高(一(2)による審査基準日が経営事項審査を申請しようとする日の属する事業年度の直前の事業年度終了の日から3月以内である場合に限る )

出典元:通達「国総建第313号 平成20年3月10日」、https://www.mlit.go.jp/common/000011841.pdf

 

例えば、A社が「土木工事部門」と「建築工事部門」を保有し、建築部門だけを新設会社へ分割する場合、A社の過去の完成工事高全部を新会社が取得できるわけではありません。契約台帳、工事経歴書、部門別売上、原価台帳、承継契約、従業員・資産移転記録により、建築部門に相当する実績を説明する想定があります。

事業譲渡でも、営業所、従業員、のれん、資産・負債等が事業単位で移転し、譲渡前の企業評価の全部又は一部を譲受人に承継させるべきと認められる場合に、譲渡時経審の特例が検討されます。建設業務の契約や技術者の一部だけを移すような取引では、同じ扱いになると断定できません。

建設業許可の事前認可による承継には「建設業者の地位の全部の承継」という枠組みがある一方、経審の譲渡時評価は、取引実態に応じて企業評価の一部を承継する場面も想定しています。両者の「一部」の意味を混同しないことが必要です。

5.実務で問題になる3つの注意点

① 特殊経審には、当事会社双方の手続が必要になることがある

国交省通達では、譲渡時経審や分割時経審を譲受会社・承継会社側が申請する場合、譲渡会社・分割会社側も再編後の経営実態に応じた経審を同時に申請することが原則とされています。申請方法・例外等は許可行政庁と事前協議が必要です。

② 合併・分割時点の評価と、次回決算後の評価は異なる

特例によって合併日等を審査基準日とする経審を受けた後も、次の決算に基づく通常の経審が必要です。合併直前の経審結果がある場合、直ちに合併時経審を義務付けない取扱いもありますが、入札発注者への届出・資格認定の変更とは別に確認しなければなりません。

③ 許可業種・入札参加資格はそれぞれ別論点

会社分割では、主たる営業所が異なる都道府県に移る場合などに特例算定が制限される場合があります。また、建設業許可の承継が認可されても、国・自治体ごとの競争入札参加資格や等級・格付けまで一律に移転するわけではありません。公共工事の継続受注を目的とするM&Aでは、発注者ごとの取扱いを必ず確認します。

6.組織再編前に進める実務フロー

段階 確認・準備する事項
① M&Aの基本設計 株式譲渡/吸収合併/会社分割/事業譲渡から方式を選定。入札継続の必要期間を確認。
② 建設業許可DD 全許可業種・一般/特定区分、常勤役員等、営業所技術者等、財産的基礎・欠格要件、許可の承継方法を確認。
③ 経審DD 直近3期の工事経歴・財務諸表・経審結果、技術職員、元請完工高、W点証憑を確認。
④ 行政庁への事前相談 許可の承継認可と、合併時・譲渡時・分割時経審の特例適用・審査基準日を相談。
⑤ 会計・申請書作成 修正財務諸表・配分表等を作成し、必要な公認会計士・税理士の証明と経営状況分析を取得。
⑥ 実行・入札対応 組織再編の効力発生後、特殊経審の申請・結果取得、発注者への変更届や格付審査を進める。

東京都の特殊経審では、経営状況分析申請より前の事前相談、修正財務諸表・精算書等の作成、これらに対する公認会計士又は税理士の証明、契約書・工事資料・技術職員資料の確認等を案内しています。提出書類や審査手順は申請行政庁・案件ごとに確認してください。

7.よくある質問

Q.合併によって2社のP点を足せますか?

いいえ。合算できる審査項目はありますが、統合後の数値で各評価を行うため、P点を単純に合計する制度ではありません。

Q.会社分割で、利益の出ている建設部門だけの経審を引き継げますか?

対象部門の完工高・財務数値などを客観的に区分し、特例の対象になると認められれば、分割時経審に反映できる余地があります。ただし、業種や移転資産の範囲、営業所所在地等による制約を確認する必要があります。

Q.合併して許可を承継すれば、公共工事の入札資格も自動で承継できますか?

いいえ。経審とは別に発注者の競争参加資格・格付け・名簿登録の取扱いがあるため、各発注者への確認が必要です。

谷島行政書士法人グループのM&A・経審実務支援

谷島行政書士法人グループでは、建設業許可の合併・分割・譲渡認可と、経審・技術職員・公共工事の継続管理を横断して支援します。特に、買収価格や再編方式を決定する前段階で、許可の空白、経審の評価継続、入札参加資格の扱いを確認することが重要です。

ご相談に際しては、両社の建設業許可の一覧、直近の経審結果通知書、過去2~3期の工事経歴・決算資料、技術職員一覧、想定する再編スキームをご用意いただくと、論点を具体化できます。

建設業許可・経営事項審査サービス:https://tanishima.net/

 

根拠資料・公式案内

[1] 建設業法第17条の2・第27条の23以下/国土交通省 関東地方整備局「事業承継等の事前認可制度」[2] 国土交通省「経営事項審査・関係通達」(合併・譲渡・会社分割)[3] 「建設業者の合併に係る建設業法上の事務取扱いの円滑化等について」(平成20年3月10日 国総建第309号)[4] 「建設業の譲渡に係る建設業法上の事務取扱いの円滑化等について」(同日 国総建第311号)[5] 「建設業者の会社分割に係る建設業法上の事務取扱いの円滑化等について」(同日 国総建第313号)[6] 東京都都市整備局「経営事項審査 説明書・申請書類及び記載要領」(令和8年9月版案内)[7] ワイズ公共データシステム「特殊な事例の経営状況分析申請について」

 

この記事の監修者

谷島 亮士
谷島 亮士
谷島行政書士法人グループCEO・特定行政書士外国人雇用・ビザの専門家として手続代理と顧問アドバイザリーを提供。ビザ・許認可など法規制クリアの実績は延1万件以上。 ▶ 求人・パートナー募集はこちら
 
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- 略歴等
・札幌生まれ、仙台育ち、18歳から東京の大学へ進学。
・自身が10代から15種ほどの職種を経験したことから、事業のコンサルと経営に興味を持ち、その近道と考え行政書士受験、独学合格(合格率2.6%)。
・行政書士・司法書士合同事務所を経験後、大和ハウス工業㈱に入社。「泥くさい地域密着営業」を経験。
・独立し業務歴15年以上、マサチューセッツ州立大学MBA課程修了、現在に至る。
 
- 取引先、業務対応実績一部
・企業:外国上場企業などグローバル企業、建設など現場系の外国人雇用企業
・外国人個人:漫画家、芸能人(アイドルグループ、ハリウッドセレブ)、一般企業勤務者他